する。母親は絶えずお葉の顔を見つめながら、彼女の乱れた生際《はえぎは》を冷たいタオルでぬらして居た。
次の夜がまた相変らずおそって来た。そして前の夜にもまして重苦しいながい夜であった。丁度沙漠を旅する人のやうに、熱さに苦しみながら、変化のない夜を只水を欲して居た。
彼女は幾度も/\母親を起した。そして母親がコップを持って廊下を出た時、耳をすまして遠くに氷をかく音を聞いた。そしてどんなに扉《ドア》のあくのを待ったかしれない。
胸の上にコップを置いて白い、然しやきつくやうな両手でつかんで、氷のかけを咽喉《のんど》に落した時、彼女は漸く浮き上るやうな気持ちになった。そして極めてわづかの夢を見ることが出来た。
それから、お葉は廊下の足音を出来るだけ気をつけた。そしてその足音がもしも、扉《ドア》の前にバタリと止って、扉の影からそうっと白衣が見えた時には、その看護婦の空想的な瞳をすがりつくやうに捕へた。そしてコップにまたわづかの氷を願った。彼女は目覚める度に時間を聞いて、時があまりに静かなのに不安でならなかった。
『あゝまだ夜があけない。』お葉は眠らないので疲れ切ってた。しかし夜が明ければ
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