一羽しか見えないのを不思議に思って見ながらも、手はいつか小石を拾って居た。一つの小石が飛んだ時、それは見当違ひであったので牝鶏がふと首を上げたばかりであったのに、なにげなく抛った第二の小石は、牝鶏の為めにも、またまち子の為めにも運命の恐ろしさだった。
 小石は牝鶏をこして、牝鶏のかげに餌をあさる雛鳥の眉間に手強く命中した。雛鳥は、そのまゝ起き上らない。牝鶏は、立ちどまってくくと鳴いた。
 まち子は、只怖れた。かくまでに死といふものが偶然であったかと云ふ事を考へたのではないが、夕方雛鳥が帰らなかった時に、その飼主のことを思って小石がなにげなく雛鳥の眉間に落ちたといふ事は自分の意志でなく力でなく、宇宙の不思議であるとしても、あまりに美しいリボンを頭につけることすら学校の教師に罪悪と教へられたまち子は、雛鳥の死はどれだけ大きな罪悪となって身にふりかゝる事かと考へたのである。
 罪悪といふものが、彼女は心から芽ぐんで来るものだと云ふことを知らない。
 罪悪といふものは頭の上から頭巾のやうに誰れかにかぶせられるものだと思ってたのだ。
 まち子は、不意に悲しみに疲れたやうに、椽に腰を降ろして、使っ
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