の手にたづさへられてこの南の地に来てから、朝早く良人が会社に出かけたあとを夕方まで、茫漠として自然に対して悲しい瞳を伏せないわけにはいかなかった。新らしい土地に来て、わづかばかりの隣近所にも親しみはなし、雇人すら十分に言葉が通じない。しらじらと涙がつたっても、いたづらに乾くばかりで花に情は求め得られない。空を仰げばとて、空の青さにうるほいも親しみもないのだ。
まち子は、良人ばかりが、只良人ばかりが天地にたった一つの優しい花だと思ひ定めて、ひたすらに、只何事もすがっては居たけれども、うら若いをんなの心に男はあまりに偉大であった。
このごろ、ネルのきものに漸くやすらかになった時を、まち子は、花でなくともなにかやはらかな野菜のやうなものでも、この赤土の上に育てゝ見たいと、かすかに踊る心を持って、一日小さな土人の子を相手に土をやはらかにして、ほうれん草を植ゑてみた。
すると、それはまち子が一心に土の上を眺めるまもなく青い芽を出した。
その芽はなんとも云はれない、丁度恋の思出がめぐみ出したやうな、なつかしみと、やはらかさと光りとを持って居るやうに見えた。
まち子は、その寸にもたらない青
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