とげしい、少しも草といふやはらかみのない草の上のをちこちに、土人の舌のやうな、あくどい真紅な花や、また真青な土人の腕の入墨のやうな花が漸くこの頃見えて来て、それに、きび畑が背たかくかぎりなくつゞくばかり。自然はます/\力強く暴虐に微笑してゐる。まち子の弱々しい、優しい心はとても親しむべきすべがなかった。彼女は、ちいさい時から、花の美しさ、やさしさ、自然の暖かさ、安らかさに育ぐまれて来た。彼女の生れた家は、北国の大きな農園のなかにあった。
彼女が輪まはしに駈けめぐる小路のあたりにはやはらかなクローバーが白い花をつけ、エルムのやさしい梢は彼女の頭の上に押しひろがって、ゆたかな影を与へて居た。そしてまた母の留守の時は温室のなかの藤椅子の上に美しいチューリップや、アネモネの上に瞳をすゑておとなしく暮したのであった。
まち子はその中に大きくなって、いつか十八の年を後に見た時、丁度貴婦人が秘蔵の宝玉を商人に手わたしする時のやうに父母の誇りと、いたはりの瞳に送られて、良人の手に渡された。
宝玉を得た男は、勇んで南のはてに走って、自分の事業にたづさはらねばならなかったのである。
まち子は、良人
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