て湯上りの体を車にのせて、人通りの少ない原や、屋敷の間を通りぬけた。彼女は、本当に少しでも多く、良人に絵を描かせたかった、本当に少しの間でも。けれども常に自分の肉体の弱さや、不意の出来ごと、やはり子供の病気などの為めに、殆ど彼に絵をかゝせることが出来なかったのを、悲しく思った。そしてまた秋が来たのであった。秋が来ると、若いトルコ帽の男や、髪の毛の長い男などが、大道を闊歩するのが目立つ。そして病める画家、老いたる画家までが、忙しさうに秋晴のなかに動き出すのであった。
そして地位のある壮年の画家は、元気づいてにはかに腰をすゑたやうに見え、どこかに落ち込んでしまったかのやうに、誰れにも気づかれずに見えなかった女絵師が、急に厚化粧した女のやうに、けば/\しく目立って来るのであった。
秋になれば、本当に寝てゐたやうな画家たちも、急に蘇生した人間のやうに、にはかにうろ/\と大道を歩き出し、展覧会場をねり歩き、互に夢見たことを語り合ふかのやうに、新しい画論や色彩について構図について力について、感激し憤怒し興奮して、喧《やかま》しく語り合ふのであった。
朝子は、其画家たちの喧騒を見たり聞いたりし
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