になると、鏡にうつる彼女の顔はまっ青だ。そしてやせて骨だらけな身体が死んだやうに白い。それに髪の毛ばかりが真黒でおもたさうに見えるのであった。
 朝子は、ポタ、ポタ、ポタと、どこかに水の落ちる音を耳にしながら、鏡にうつってゐる自分の身体をぢっと見つめて、ぼっとしたやうな心持になると、鏡のなかの自分の眼の色が白く妙にかはって行くのに驚かされて、はっ[#「はっ」に傍点]とした。彼女は鏡を横にして、あわてたやうに洗ひ出した。
 肺の悪い朝子は、この五月に発熱してながく床についてから、初めて自分の弱って行く身体を気にするやうになった。気にしないではゐられないほど弱って来たからであった。そして妙に涙よわく、力なくなったのも、身体が弱くなって来たせゐだらうと、彼女は考へた。
 一寸した日の照り工合やなにかの為めにも体温の変化がはげしかったりするので、朝子はなによりもその日の天気を気にした。それから食事や、一寸した痛みにも注意深く考へるやうになった。そして時子の乳もすっかりはなしてしまったのだけれども、朝子はなんだか、だん/\やせて弱って行くやうな気がしてならなかった。
 五月までは、胸にふくらんで
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