。そしてその老いた跛が次第に彼女を見て、同じ不具者の哀《あはれ》みを乞ふやうな同情を強ひるやうに、笑顏を見せるやうになつた時、お葉は悲しかつた。世の中の人が類を持つて集まるやうに、自分は不具者の中にのみいたはられて、睦《むつ》ましく暮さなけりやならないといふのは堪へられないことだ。そしてそれが什※[#「麾」の「毛」にかえて「公」の右上の欠けたもの、第4水準2−94−57]《どんな》に慘《みじ》めで悲しいことだらう。お葉はすべて自分と等しく肉體の缺陷ある人を目に寫さないことを祈つたのである。
鏡を見ずに暮される人は幸福である。人は自分の姿を知る時、初めて世の中の悲しさを知る。お葉は出來るならば、この宇宙に癈疾者の自分一人であることを考へた。自分の姿を見するものなかれ。またお葉の姿によつて、自分と等しい悲しみを覺えるもののないことを祈つたのである。
やがてお葉の家はまた移らねばならなかつた。そして三年の間別れてゐた兄や嫂《あによめ》と逢ふのであつた。
「いろいろお世話樣になりまして――。」
お葉は親しんだ湯屋の若いおかみさんに別れをつげて、奧まつた平屋の靜かな家に行つたのである。久し
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