木で作られた足は無雜作に折られて、鋭いかんなは其上をすべつた。白い布の上に澤山落ちたかんなくづが、そこに俯向《うつむ》いて横坐りに手をついてゐたお葉の瞳が茫然とうるんだ時に、一面べつたり血しほが流されてるやうに見えたのであつた、牛肉のやうに肉がぽつぽつと切れて、白布の上に落ちたのである。
やがてお葉が空を見上げて再び前を見た時に、白い足の上には氣味の惡いやうな木目が彫物《ほりもの》のやうに長くついてゐて、觸れた指先には無心な冷さが傳はつたのであつた。
一月の後になつて、それは勞働者の脛《すね》のやうに代赭《たいしや》色のつやつやした皮で張られて來た、足は白い消しゴムのやうに軟く五本の指が動くのであつた。お葉はその義足をつけた時、衣の中に何といふ恥しさを感じたことだろう。肩についた皮や、胸や腰のバンドがお葉の動く度に鳴つた。柔らかな初毛《うぶげ》のはえた肉色の一脚にならんで、それはつやつやと手垢にみがかれた骨董品のやうな一脚であつたのだ。またそれはくけだいのやうにピンと折れては、カチンと延びる無意味な器械であつた。その足はなに物に強くふまれても、棒のやうにいつ迄もながく立つてゐた
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