かつたことを感謝したのである。
夏の終りごろ、お葉の家は一時|湯殿《ゆどの》のない家に引き移らねばならなかつたのである。彼女は母親について新しい家に行つたのであつた。けれどもお葉は色々道具と共に荷車の上につまれた義足のことを悲しく考へたのである。白い袋に入れられた義足がしちりんやお釜の側に積まれたのを、彼女は竹垣によつて見てゐる時瞳が曇つて來た。
「なに大丈夫だよ。上に莚《むしろ》をかけるから、少しも見えやしないよ。」
お葉の兄は荷物の上に繩をかけながら言つた。
「お孃さん大丈夫です。見えたにしたつて、誰れもお孃さんの義足だつて知る奴ありませんからね。」
車屋は兄について大聲に言つて笑つたのである。
お葉は母親とならんで電車のなかに腰を降した時、賑かな街の坂の上を登つてゆく車のことを思つた。そしてその中に積まれた足袋をはいてる義足は矢張り道具であるのだと思つたのである。血も肉もない骨もないのだつた。腿《もも》のなかは空洞になつて、黒い漆《うるし》が塗つてあることを考へた。膝から上が桐の木で、膝から下が朴《ほほ》の木で作られて足の形を取る時に、かんなで削つたことを考へたのである。
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