つたらう。』
 巍《たかし》は感心してよろこびに堪へられないやうに云ふ。すると多緒子もすべてを忘れて、嬉しさうに深い息をつきながら、
『本當に、なんて可愛《かはい》んでせう、どこつてかけた所のない、この肌の氣持のいゝこと。』
と、なにか云ひたいことが、とても口で事はれないと云つたやうにある感慨にみたされて云つた。二人はそのひまもぢつと幸子を見てゐた。やがて巍は、多緒子の顏を見ながら云つた。
『二人の愛のなかに産れた子供なだもの[#「なだもの」はママ]、全く全く純な愛、清らかな肉體から生れた子供だもの。だから幸子は、こんなに完全で氣持がよくきれいなんだよ。それが普通なんだもの。』
『本當にね。』
 多緒子は涙を浮べてうなづいた。そして愛するものゝ爲めに、彼女は出來るだけの心づかひを持つて、一生懸命に働いた。
 けれども梅雨《つゆ》の終り頃になつて、すべてが濃い青葉につゝまれてしまつた頃、幸子《さちこ》は小さな咳を二つ三つし初めた。彼女たちは、子供にとつて恐ろしい百日咳の話しを幾度となく聞いたので、巍《たかし》が[#「巍《たかし》が」は底本では「巍《たかし》を]子供をつれてすぐ近所の小兒科
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