く山を海を隔てゝゐな[#「な」はママ]ので、赤ん坊は生れるとすぐに二人の若い兩親の手ばかりで育つた。巍は子供を抱いて子守唄を歌ひながら、部屋の中を歩きまはつた。そして幸子の小さな寢床を二人の間にのべた。無經驗な二人は經驗者より以上の敏感と神經質とでもつて、我子の上を見つめ、我子の上をかへりみた。二人は傭ひ入れた女中にも、赤ん坊のことはさせなかつた。
二人ははじめ各ひそかに赤ん坊の肉體をくまなく注意深く見て、少しのきずも少しの間違もないのを見ると、非常な安堵と感謝の心持とを深く感じた。多緒子はおどおどして赤ん坊と二人きりの時、幾度となく赤ん坊の縮こまつてる兩足を、そつとのばしてはくらべて見た。一分でもちがつてゐたら、成長してから一寸の違ひにもなるであらう。多緒子は常にある恐怖を持つて我子、我夫、すべて愛するものゝ足といふことを考へてゐたのであつた。
けれども幸子は二人の間に、本當に初夏の若葉のやうに快よく目に見えて幸福さうに育つた。二人はふとした休息の時に、寢入つてる幸子の顏をのぞき込んで、新らしい果物のやうな、甘い快い香ひをかぎながら、微笑み合つた。
『なんて完全に心持よく大きくな
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