い土に腰をおろして、すゝきの蔭に睫毛をふせた。
『淋しい野ね。』
彼女は、遂に幸福は悲哀でなかつたらうかと、涙ぐんだ。しかし希望は、涙のうちに輝いた。
『緑の野があるでせうか。』
『えゝ、きつと彼方の森の方に、あるに違ひない。』
彼の瞳は、やはり輝いてゐた。永遠の空に對する、星の輝きである。彼女は、その瞳を見る時に、たそがれの空にひとり輝く、明星をあふぐやうな悲しみを覺える。二人は立上つて、はるかな空を仰いだ。空は、暮れるかと思はれる淡藍色に、高く廣く遠かつた。そして、太陽は、かくれたる所から、水のやうな光線の箭《や》で以つて、空を條《すぢ》づけてゐた。彼女は、ゆきくれた旅人のやうな、たよりなさを感じた。足もとの水たまりに、雨上りの空の遠さを見るかなしさに、うち沈んだ。
『森の方に、日が輝いてる。』
彼は、靜かに言つた。彼女は、瞳をめぐらして遠くを見た時に、しげり合つた彼方の森の上に、太陽の光線は明るく輝いて、そこにつらなる野は、靜かな光りにみちてなめらかに見え、百姓家の屋根が幸福らしく見えた。彼女の瞳は輝いた。そして、あの野にすべての苦しみやかなしみが、夢のやうにながれて、この
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