二人の胸のなかには、彼女が彼と共に二階の欄干によつて、木や草や、森や、屋根の上に人の上に、すべての都會の上に高く遠い空の不可思議を、あふいだ時と等しいはるかな憧憬の、緑の野があつた。そして戀の淋しい心は、やがてくづれがゝつた土手にそうて、細い小路に折れまがつて行つた。その道のほとりに、土の下に草は淺黄色に枯れてゐた。秋草のやさしさは、灰色にふみにじられてゐる。二人は、無言のまゝ歩いた。細い道と、折れた草とは、彼女の弱い足をなやましたけれども、緑のひろ野を求める心が、二人の道をいそがした。
けれども、秋は夏の幸福を從へて、もはや末であつたから、蟲が折々細い聲をしぼつて、彼等の足音に嘆きをつたへた。
二人は、やがて灰色の枯草が地にふしてかなしむ、廣い野に出た。そして、野の中程の土の高みに、とり殘されたやうになびく、五六本のすゝきの蔭に、二人は立止まつた。
彼女の足は、すつかりつかれてゐた。いこふ野に一本の木もなく、土はかたく荒れて、草はまばらに肌を見せてゐた。秋風は、この野の末から末に渡つて、彼女の生際《はえぎは》ににじんだ汗は、つめたく肌にしみてゐた。彼女は、遂に杖をはなれて、冷た
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