に從つた。
廣々とした車内には、閉《と》ざゝれた連なる玻璃の窓を透して、金屬のやうな午後の光りが、みちてた。彼は、その光りのなかを、割るやうに、彼女は、その光りのなかに溶《とか》されるやうに、二人は、赤いクッシヨンに並んで、腰をおろした。
彼女は、靜かに黒塗の杖から、汗ばんだ白い手をはなした。そして膝の上にかさねた袂のなかの、冷たい絹に、その手の熱をひやしながら、靜かなやはらぎを感じた。
電車は、彼等のほかに幾人かの人をのせて動き出した。郊外へ/\と走る電車は、その窓に輝く木の葉の、きらびやかな影をうつして、人々は、ある漠然とした遠い心に捕はれてた。そして誰れも、その人々の顏について、眺める事をしなかつた。
彼女は、まぶしさうにうつむいてゐた。
その肩に強い日光をうけて、知られざる哀愁が、彼女の胸にみちた 彼女は、足元に木の葉の影を落して、はひよる光りを見つめながら、電車の響きが、彼女の頭に心よいリズムをつけてゐるのを感じた。
『靜かな、空の廣い野に行くんですわね。』と彼女は、戀人に對して確める前に、彼女は、はじめて、野のたのしさに、はれやかな憧憬の心をおこさしめた彼の手紙を
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