な不安に、やはらぎは求め得られなかつた。彼女は、絶望的な瞳を持つて、戀人を見た。そして、再び立ち上つた。
『野があるでせうか。』
 彼女の心は、かなしみにみちてゐた。
 二人は、また、林をぬけて歩き出した。けれども、振りあふぐ瞳のなかに、彼方に見ゆる丘や森は、すべて幸福に見えた。かなしい希望は、はるかな道々《みち/\》につながつて、彼等二人は、あてどもなく歩いて行つた。
 二人は、遂に畑のなかをも通つた。赤い唐辛子の輝きにも、はかないあこがれがあつた。すべてのひそかな小路の奧や、裏に、見出されない祕密の幸福や、緑の野があるやうに見えてならなかつた。そして、彼女は、遠くに白く輝くすゝき[#「すゝき」に傍点]のしげみを見出した時、うれしさうに言つた。
『あの、すゝきの上に坐りたい。』
 彼女は、彼のあとに從つて、しめつた道や細い小路を疲れたまゝ、夢のやうに歩いた。そして、やうやくすゝき[#「すゝき」に傍点]の輝きを間近かに見た時、深い溝は彼女を渡さなかつた。二人はかすかな息をついた。どうすることも出來ない、淋しさである。
『行きませう。』彼は、わだかまりなく言つた、彼女は、茫然と立止まつて
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