しかった。茶の間の方に兄や姉などの声が入りまじって聞える時などは、みんなの楽しさにくらべて閉込《とじこも》っている自分の身が、殊更にあわれまれた。けれどもどうしても、自分はみんなのお仲間入りをして、楽しく話し合うというようなことは出来なかった。この変化があまりに自由であった少女の肉体に、どれだけの束縛を与えたことだろう。
少女は、一人でじっと悲しさや不安に沈みながらもふと今日は姉の活花《いけばな》の日であるという事を思出した。彼女は、美しい姉が今日は、どんな様子をしてどんな美しい花を持って行くだろうと考えると、それを一目見たいと思った。またきのう自分が学校で赤い羅紗のマークをつけて上げた兄のボールの襯衣《しゃつ》をもう一度着て見せて貰いたかった。けれども彼女は動くことが恐ろしく不安だった。少女は、耳をすまして家の中の静かな事を考えながらまた急にかなしくってならなかった。
やがて、『行ってまいります。』と、姉が常のように晴れやかな声で、出て行くのが聞えた。少女は、姉が金仙花と、赤い夏菊とをそろえて、花の方を地にさげて持ちながら、出てゆくのを想像した。そして紫のパラソルが道向うの生垣の
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