角を曲るのをも、目の中に考えて見ることが出来た。
 少女はすぐに、強い兄の足音が響いて来て『お縫ちゃんは、どこに行ったんだろう。』と云ってるのが聞えた。彼女は、兄がいまにも襖を開けて自分を見るであろうと思った時、兄のなつかしさと同時に、恐ろしい羞恥がまた彼女を苦しめた。そしていつものように、柔道を教えるといって引出したり、それからピンポンをしよう等と云い出したら、どうしようと思ったが、それよりも自分のこの恥しいいまわしいことを知られたらと思って、少女はたまらなそうに身をすくめた。
『どうしたんだいお縫ちゃんは、今日は馬鹿におとなしいね。』
 兄はやはり襖を開けた。そして少女をのぞき込んだ。少女はあわてゝ机の側にしっかりと身をよせた。そして彼女は漸く兄を振りかえった。その目は、なにか弱いものゝ哀願的な光りをおびて涙ぐんでいた。そして少女は物をいう事が出来なかった。
『身体《からだ》が悪いの。』
 兄は再び云って、妹の顔を見たが、その部屋の静まりかえった様子や、妹の瞳が涙に光っているようなのを見て、彼は妹をなにがなしにあわれだと思った。そして彼女がどことなく神々《こう/″\》しくふれてはな
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