いて話すことを躊躇し、またいとうようであった。
 少女は、なおカーテンの中に顔をうずめながら恥しさと厭わしさに耳をそめて、静かにうなずきながら聞いた。けれども遂に少女は母親が部屋を出て行ってしまうまで、顔からカーテンをはなすことが出来なかった。母親の顔を見ることすら出来ないほど、彼女の心は恥しさに満たされてしまったのであった。
 やがて彼女は、窓硝子を透して暑いまぶしい日光が額と前髪とにあたるのを感じた。それで、漸く彼女は瞳を見開いて、日がうるんだ彼女の瞳の前にいくつかの小さな環になって、キラ/\と渦をまくように感じながら、物倦《ものう》く着物の前を合せて、それからひそかに姉や兄やまた母親の姿をさけて、茶の間に行った。そして初めての、限りなく不安な不味い朝の食事を、かぎりない寂寥と孤独とを感じながら一人でたべ終った。彼女は、そしてまたすぐ知られないうちに、自分の部屋に帰って襖を閉じた。
 けれども少女は、幾日もまた幾年も逢わない人のように、姉や兄の顔を見たかった。また母に云ってきのうのおいしかった十四号の林檎をたべたかった。そして姉や兄はどこへ行ってなにをしているのだろうと、むやみに恋
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