お起きだろうね。』
 そして母親は、常のように優しく声をかけて、少女を見守ろうとしたが、少女が全くおびえたように驚いて、カーテンを急にかたく顔におしあてたのを見て、母親は、あきれたように目を見はった。
『おやお前はなにをしてるの。』そして、母親は、おじ/\と彼女の部屋のなかに入って来て、少女の肩に手を触れようとしたが、少女は母の手が恐ろしいものゝように、さけるようにしてうつむいた。彼女は、とう/\カーテンで押えた、その大きな露を持ったような瞳を、すっかり泪におぼれさしてしまったのである。
 母親は、いぶかしそうに再び周囲を見まわした。そして、彼女が自分自身を母親に見られることが、恥しくまた恐れているような様子を見た。少女の肩に乱れているお下髪《さげ》の髪が、静かにふるえているのであった。
 それで母親は、ふとあることに気がついたように、掛けてあった夜具をひろげて見た。そして漸く安心したように襖をしめて、少女の傍に坐り静かに話しをして聞かせた。それが、すべての女に対して女と産れた以上は、必ずあるべきことであるけれども、ひそかにかくすべきいまわしい恥ずべきことゝしてまた母親自身も、それにつ
前へ 次へ
全19ページ中7ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
素木 しづ の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング