苦しい恥羞は、罰を受けた時の良心であろうと思ったのだ。
『私はなんにも知らない。』
彼女は、遣瀬《やるせ》なさとかなしさと、不安との為めに立上ることも出来ずにいた。そして、彼女の美しい腕や胸は疲れて、眼は不安に空を見つめたまゝしばらくふるえていた。
しかし人間のあらゆる感情と行為とは、どれだけ生理的によって強いられるかわからない。
少女はまたすべての感覚が著しく、鋭敏になっていた。彼女の乱れた髪のなかの小さな二つの耳は真赤になって、襖の外にする物音や声をすばやく捕えることによって、おのゝいているのであった。そして、いまにも何人かゞこの襖を開けて自分を見るであろうという予覚によってたまらなく不安でならなかった。
『どうしよう、どうして。』
少女は、ぬけ出た夜具の乱れた模様の皺を見つめて、不安と恥しさにふるえながら、
『どうして、すべてのことどんな事でもお話しすることの出来たお母様に、どうして、こんな事がこんなに恥しいのだろう。』と考えた。
そして、この変化によってすべての今までの明るい面白い歓喜と希望にみちた、夕《ゆうべ》までの楽しい多くの友だちと兄弟との世界がすっかり閉されて
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