っていた。そして彼女は静かに讃美歌を口ずさみながら、緑の木蔭の方に吸われて行った。
『命は葉末の露にもにたり、父さり姉ゆき友またねむる。――』
 そして、彼女は遠くに白く光って見える池の方を見つめていたが、少女の心は疲れたように沈み切ってしまっていた。彼女は大きな楡の木蔭に日をよけていつまでも/\立っていた。彼女の静かな心のなかに重い緑のかげが、次第々々にひろがって来た。
『お縫ちゃん。』
 彼女は茫然と物倦く二つの眼を開きながら遠くの方を見ようとした時、つい横の木のかげから、彼女の兄がボールを持って出て来た。
『なにをしてるの、家《うち》に帰らないのかい。』
 彼女は静かに笑って兄を見た。兄は急に五間位先の方に飛んで行ったと思うと、ボールを高く上げて、『いゝかーい。』と大きな声で叫んだ。そしてその言葉が終ると、すぐ白いボールが少女の前に飛んで来た。彼女は仕方なく目の前に来たボールを取ろうとして思わず両手に力を入れた時、彼女の心のなかにひそんでいた気軽なよろこびの心がふいと飛出してしまった。彼女は一人で大きく笑ってしまった。そしてボールを力一っぱい宙に向って投げかえした。
 少女が家に
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