すべてが悲しみにみちてるように思われたのであった。彼女は、一葉全集を静かに風呂敷につゝみながら店を出た。
 少女は道すがら、いろ/\悲しい事を思出していた。自分の姉が肺病で病院に入っていること、そして肺病だからといって自分がもはや一月以上も姉に逢われないこと、その姉の大きな眼、あの細い手にはめてる真珠の指環、長い長い髪、少女は美しい一番上の姉を思出してる時、もはや姉は死んだ人のように思われた。
『姉さんは死ぬんだ。』そう彼女は口のなかではっきりと云って見た。けれども心のなかではもはや姉さんがこのまゝ彼女に逢わずに病院で死んでしまったことになっていた。彼女は涙があふれそうになった。彼女は夢のように歩いた。
 少女はやがておどろいたように立止った。そして行きすぎた女の人の後姿を振りかえって見たが、それは彼女の学校の歴史の先生ではなかった。行きすぎた女の人の髪の毛は、あまりにすくなかった。けれども彼女は、すぐなつかしい歴史の先生のことを思出した。そして、彼女がその先生といまだ近づきになることが出来ないことがたまらなく悲しく思われて来たのであった。
 少女はいつか博物館の森の方に歩いて来てしま
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