さまよ》ふ
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野分に寄す
野分《のわき》の夜半《よは》こそ愉《たの》しけれ。そは懐《なつか》しく寂《さび》しきゆふぐれの
つかれごころに早く寝入りしひとの眠《ねむり》を、
空《むな》しく明くるみづ色の朝《あした》につづかせぬため
木々の歓声《くわんせい》とすべての窓の性急なる叩《のつく》もてよび覚ます。
真《しん》に独りなるひとは自然の大いなる聯関《れんくわん》のうちに
恒《つね》に覚めゐむ事を希《ねが》ふ。窓を透《すか》し眸《ひとみ》は大海《おほうみ》の彼方《かなた》を待望まねど、
わが屋《や》を揺するこの疾風《はやて》ぞ雲ふき散りし星空の下《もと》、
まつ暗き海の面《おもて》に怒れる浪を上げて来し。
柳は狂ひし女《をんな》のごとく逆《さかし》まにわが毛髪《まうはつ》を振りみだし、
摘まざるままに腐りたる葡萄の実はわが眠《ねむり》目覚むるまへに
ことごとく地に叩きつけられけむ。
篠懸《すゞかけ》の葉は翼《つばさ》撃《う》たれし鳥に似て次々に黒く縺れて浚はれゆく。
いま如何《いか》ならんかの暗き庭隅《にはすみ》の菊や薔薇《さうび》や。されどわれ
汝《なんぢ》
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