らを憐まんとはせじ。
物《もの》皆《みな》の凋落の季節《とき》をえらびて咲き出でし
あはれ汝《なんぢ》らが矜《ほこり》高かる心には暴風《あらし》もなどか今さらに悲しからむ。

こころ賑はしきかな。ふとうち見たる室内《しつない》の
燈《ともしび》にひかる鏡の面《おもて》にいきいきとわが双《さう》の眼《まなこ》燃ゆ。
野分《のわき》よさらば駆けゆけ。目とむれば草《くさ》紅葉《もみぢ》すとひとは言へど、
野はいま一色《ひといろ》に物悲しくも蒼褪《あをざ》めし彼方《かなた》ぞ。
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 若死 N君に


大川《おほかは》の面《おもて》にするどい皺がよつてゐる。
昨夜《さくや》の氷は解けはじめた。
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アロイヂオといふ名と終油《しゆうゆ》とを授かつて、
かれは天国へ行つたのださうだ。
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大川《おほかは》は張つてゐた氷が解けはじめた。
鉄橋のうへを汽車が通る。
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さつきの郵便でかれの形見がとゞいた、
寝転《ねころ》んでおれは舞踏《ぶたふ》といふことを考へてゐた時。
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しん底《そこ》冷え切つた朱
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