絆《きづな》はどこに行つたか
又ある部分は
見せかけだと私にはひがまれる
甘いサ行《ぎやう》の音で
そんなに誘ひをかけ
あるものには未だ若かすぎる
私をこんなに意地張らすがよい
それで も一つの絆を
そのうち私に探し出させて呉れるのならば
[#改ページ]

 即興


……真実いふと 私は詩句など要らぬのです
また書くこともないのです
不思議に海は躊躇《たゆた》うて
[#天から5字下げ]新月は空にゐます

日日は静かに流れ去り 静かすぎます
後悔も憧憬もいまは私におかまひなしに
奇妙に明《あか》い野のへんに
[#天から2字下げ]独り歩きをしてゐるのです
[#改ページ]

 秧鶏は飛ばずに全路を歩いて来る


秧鶏《くひな》のゆく道の上に
匂ひのいい朝風は要《い》らない
レース雲もいらない

霧がためらつてゐるので
厨房《くりや》のやうに温《ぬ》くいことが知れた
栗の矮林を宿にした夜《よ》は
反《そり》落葉にたまつた美しい露を
秧鶏はね酒にして呑んでしまふ

波のとほい 白つぽい湖辺で
そ処《こ》がいかにもアツト・ホームな雁《がん》と
道づれになるのを秧鶏は好かない
強ひるやうに哀れげな
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