さでもいいから、おかしいと思ったら、大きな口をあいて笑うんだ。世間なんぞ問題にしていないようなことを言って置きながら、結局、自分の仕草の効果をお前は一番気にしているんじゃないか。もっとも、お前自身が心配するだけで、世間ではお前のことなんか一向気をつけていないんだから、つまりは、お前は、自分に見せるために自分で色々の所作を神経質に演じている訳だ。全く、どうにも手の込んだ大馬鹿野郎・度しがたい大根役者だよ。お前という男は。…………
気がつくと、三造は、何処かの店の飾窓《ショウ・ウィンドウ》の前のてすり[#「てすり」に傍点]につかまり、硝子《ガラス》に額を押付けて危く身体を支えながら、半分睡っていたらしい。飾窓の明るさに眼をしばだたいてよく見ると、それは頸飾や腕輪や、そういう真珠の製品ばかりを売る店である。おでん屋の前でM氏と別れ、それからぶらぶら[#「ぶらぶら」に傍点]といつの間にか、弁天通という・この港町特有の外人相手の商店街まで歩いて来ていたに違いない。振りかえって通りを見れば他の店は大抵しまって人通もなくひっそり[#「ひっそり」に傍点]しているのに、この店だけは、どうした訳か、ま
前へ
次へ
全53ページ中52ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中島 敦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング