だあけているようだ。目の前の飾窓の中では、真珠たちが、黒い天鵞絨《ビロード》の艶やかな褥《しとね》の上に、ふかぶかと光を収めて静まっている。電燈の工合で、白い珠の一つ一つが、それぞれ乳色に鈍く艶を消したり、うす蒼く微かな翳《かげ》をもったりして、並んでいる。三造は酔ざめの眼で、驚き顔にそれをぼんやり[#「ぼんやり」に傍点]眺めた。それから窓際を離れ、しばらくの間M氏のことも先刻の自己苛責のことも忘れて、人通りの無い街を浮かれ歩いた。
底本:「山月記・李陵 他9篇」岩波文庫、岩波書店
1994(平成6)年7月18日第1刷発行
底本の親本:「中島敦全集 第一巻」筑摩書房
1976(昭和51)年3月15日
初出:「南島譚」今日の問題社
1942(昭和17)年11月
入力:川向直樹
校正:浅原庸子
2004年8月10日作成
青空文庫作成ファイル:
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