」に傍点]助平野郎でさえあるじゃないか。知ってるぞ。いつだったか、海岸公園へ生徒を二人連れて遊びに行った時のことを。その時お前たちが芝生で腰を下して休んでいたら、やはり近くで休んでいた労働者風の男が二・三人、明らかに故意《わざ》と聞えるような声で猥《みだ》らな話を交していたろう。その時の・お前の態度や目付はどうだった! 当惑し切って、よそを向いて聞かないふり[#「ふり」に傍点]をしている――しかし、どうしてもそれを聞かない訳に行かない少女たちの方を、お前は、また、何といういやらしい[#「いやらしい」に傍点]目付で(おまけに横目で)ジロジロ見廻したことだ! いやはや。
 なに、己は別に人間生来の本能を軽蔑しようというんじゃない。助平、大いに結構。しかし、助平なら助平で、何故堂々と助平らしくしないんだ。気取ったポーズや、手の込んだジャスティフィケイションのかげに助平根性を隠そうとするのが、みっともないと言ってるんだ。この事ばかりではない。その他の場合でも、何故もっと率直にすなおに[#「すなおに」に傍点]振舞えないんだ。悲しい時には泣き、口惜《くや》しい時には地団太を踏み、どんな下品なおかし
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