だ。お前が子供の時から抱いて来たという・「存在への疑惑」という奴も、随分おかしなものだが、よし、それに答えてやろう。いいか。人間という奴は、時間とか、空間とか、数とか、そういった観念の中でしか何事も考えられないように作られているんだ。だから、そういう形式を超えた事柄については何も解らないように出来ているんだ。神とか、超自然とか、そうしたものの存在が、(また、非存在が)理論的に証明できないのはそのためなんだ。お前の場合だって、おんなじさ。お前の精神がそういう疑惑を抱くように出来ているから、そういう疑惑を抱くんで、また、その解決が得られないように、お前の(つまり、人間の)精神が出来ているから、お前にはその解決が得られないんだ。それだけのことさ。馬鹿馬鹿しい。
一体、「世界とは」とか「人生とは」とか、そんなおおざっぱ[#「おおざっぱ」に傍点]なもの[#「もの」に傍点]の言い方は止《よ》した方がいいね。第一、羞《はずか》しいとは思わないのかなあ。多少でも趣味の上のデリカシイを有《も》っている男なら、恥ずかしくて、そんなもの[#「もの」に傍点]の言い方は出来るものじゃない。それに世界は、(早速
前へ
次へ
全53ページ中48ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中島 敦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング