気も根気も無い――ただ結局の所、ぎりぎり結著《けっちゃく》の所だけを聞きたいと思うのであった。(誰に? 神に?)「一体私たちの魂は不滅なものですか? それとも、肉体と共に滅びてしまうものですか?」不滅だという答を得たところで救われるとは思わないが、(というより、死を厭う気持の中には、自我の滅亡への恐れということの外に、現在の我の存在形式への愛着が大いに含まれていると思われたが、それをはっきり見定めることは彼には出来なかった)何としても「我」が失くなるなどということは堪らないし、それに、(これは第二次的なことだが)人間の誰もが、こんな恐怖を味わわねばならぬように出来ていることが何としても不都合に思えたのである。「永遠に生きることの恐ろしさ」? それはまた、別の話だ。俺たちは今そんな事を考える必要はない。それに、それはいわば、金の使い途《みち》に頭を悩ます金満家の贅沢《ぜいたく》ではないか、と当時の三造は、そんな風に思った。
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二
ポケットを探って取出した部屋の合鍵が、掌にひやりとした感触を与えるほどの時候になっていた。
暗い部屋に入って電燈
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