土地四五千万の人民を得るも、何ぞ黄人の衰滅に補あらん。又何ぞ白人の横行を妨げん。他年|煢々《けいけい》孤立、五洲の内を環顧するに一の同種の国なく一の唇歯輔車《しんしほしゃ》相倚《あいよ》り相扶《あいたす》くる者なく、徒らに目前区々の小利を貪《むさぼ》りて千年不滅の醜名を流さば、豈《あに》大東男児無前の羞に非ずや。」という。則《すなわ》ち分割のこと、これに与るも不利、与らざるも不利、然らばこれに対処するの策なきか。曰く、あり。しかも、ただ一つ。即《すなわ》ち日本国力の充実これのみ。「もし我をして絶大の果断、絶大の力量、絶大の抱負あらしめば、我は進んで支那民族分割の運命を挽回《ばんかい》せんのみ。四万々生霊を水火|塗炭《とたん》の中に救はんのみ。蓋《けだ》し大和民族の天職は殆ど之より始まらんか。」思うに「二十世紀の最大問題はそれ殆ど黄白人種の衝突か。」而《しこう》して、「我に後来白人を東亜より駆逐せんの絶大理想あり。而して、我が徳我が力|能《よ》く之を実行するに足らば」則ち始めて日本も救われ、黄人も救われるであろうと。そうして伯父は当時の我が国内各方面について、他日この絶大実力を貯うべき備
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