斗南先生
中島敦

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)遺稿が纏《まと》められて

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)予往歳|滬江《ココウ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)清※[#「やまいだれ+瞿」、第3水準1−88−62]《せいく》
−−

       一


[#ここから2字下げ]
雲海蒼茫 佐渡ノ洲
郎ヲ思ウテ 一日三秋ノ愁
四十九里 風波悪シ
渡ラント欲スレド 妾ガ身自由ナラズ
[#ここで字下げ終わり]

ははあ、来いとゆたとて行かりょか佐渡へ[#「来いとゆたとて行かりょか佐渡へ」に傍点]だな、と思った。題を見ると、戯翻竹枝とある。
 それは彼の伯父の詩文集であった。伯父は一昨年(昭和五年)の夏死んだ。その遺稿が纏《まと》められて、この春、文求堂から上梓《じょうし》されたのである。清末の碩儒《せきじゅ》で、今は満洲国にいる羅振玉《らしんぎょく》氏がその序文を書いている。その序にいう。
[#ここから1字下げ]
「予往歳|滬江《コ
次へ
全50ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中島 敦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング