の大山に籠るのだという。大山の神主某の所へ行って、しばらく病を養うのだという。伯父はその二、三年前から時々腸出血などをしていた。それを七十を越した伯父は、気力一つで医者にもかからずに持ちこたえていたのである。その出血が近頃ますます烈しいという。そんなに弱っている身体が、何かにつけて不自由な山などへ籠っては、ますます不可《いけ》ないことは明らかなのであるが、それを言うと、どんなに機嫌を悪くするか分らないようなその頃の伯父であったので、三造も黙っているより外はなかった。それに荷物はもう、先へ向けて送ってあるのだと伯父はいっていた。しばらく、そのことを話している中《うち》に、伯父は、三造の右の眼の縁に残っている傷痕をみつけて、やっと彼の怪我のことを思い出したらしく、その工合《ぐあい》をたずねた。と、それに対する彼の答をろくに聞きもしないで、「これから床屋へ行って来る。今、道で見てきたから場所は分っている。」と言い出した。見るとなるほど、髯《ひげ》が――みんな白が黄に染まっているのだが――ひどく伸びている。頭髪はそれほど薄くはなく、殊に両耳の上のあたりはかなり長く伸びて乱れている。長寿の印しと
前へ
次へ
全50ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中島 敦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング