の模型を。模型ばかりでなく、時に本物《ほんもの》を何処からか持って来ることもあった。盗《と》って来たのか? と聞いても黙ってニヤニヤしている。神様のものを盗ったりして怖くないのかと聞くと、自分とは部落が違うから大丈夫だ、それに直ぐ後で教会へ行ってお祓いをして貰うから心配はないと言い、そっと左手を差出して私に催促する。そんないらぬ心配よりも早く金を呉れというのである。彼が教会と言ったのは、コロールに在る独逸《ドイツ》教会か西班牙《スペイン》教会かの何《いず》れかである。其処へ行って祭壇の前に一祈りすれば、古い神々を涜した懼《おそれ》から容易に解放されるのであろう。神祠の大きさから考えても、白人の神の威力の方が優れていることは疑う余地が無いのだから。
 二三日で出来る小もの[#「小もの」に傍点]には五十銭を、一週間程度を要するものには一円を、という風に、私は彼に与える代金の相場を大体決めていた。所が、或日、一個の小さな鳩型護符の代金として私が例によって五十銭紙幣を一枚彼の掌に載せてやっても、彼は手を引込めないのである。瞼をつまんで掌の上を見、それから私の顔を見てニヤリとしてから瞼の扉を下し
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