が治安に害ありと見做されて、「神様狩」の名の下に、其の首脳部に対する手入が行われていた。この結社は北はカヤンガル島から南はペリリュウ島に至る迄相当根強く喰込んでいたが、当局は島民間の勢力争いや個人的反感などを巧みに利用して、着々と摘発検挙をすすめて行った。警務課にいる一人の知人から偶々《たまたま》私は妙な話を耳にした。かのマルクープ爺さんが神様狩の殊勲者だというのである。よく聞いて見ると検挙は大部分島民の密告を利用するのだが、マルクープは其の最も常習的な密告者で、彼の密告によって多くの大もの[#「大もの」に傍点]が捕えられ、老人自身も亦既に相当多額の賞金を貰っている筈だという。尤《もっと》も、時には私怨から其の信者でない者迄告発して来ることも確かにあるらしいが、と其の知人は笑いながら語った。新宗派の正邪は知らず、とにかく密告という行為は私にとって甚だ不愉快に感じられた。
 数日後、マルクープ老人の一寸した誤魔化しに対して酷く私を腹立たせたものは、或いは此の不愉快さだったかも知れぬ。実際、何もそんなに怒る程の事ではなかった。それは、一寸した細工の上の無精と一寸した貪慾とに過ぎなかったのだ
前へ 次へ
全21ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中島 敦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング