に作って来る。昔の神事に使った極めて古い実物《もの》だと言って、相当に高く売りつけられたものが、実は極く新しい贋物だったりする。私が腹を立てて叱っても、初めは自分の製作品が正確なことを主張して容易に譲らない。種々な動かし難い証拠を示してきめつけると、遂に、何時ものニヤニヤ笑いを浮かべたまま黙って了う。「舟型霊代《カエップ》に余計な飾を付けたのは、先生(私のことだ)を喜ばせようと思ったからだ」などと言うこともある。模型は絶対に正確でなければならぬ、金が欲しさに怪しげな贋物を持って来てはならぬ、と私が厳しく言うと、大人しく頭を下げて帰って行く。その後当分はちゃんとした物を拵《こしら》えて持って来るが、一月たち二月たつ中に、又、元の出鱈目に戻って了う。気が付いて、以前買上げた彼の製作品の全部を調べ直して見ると、迂闊《うかつ》にも半ば以上は極く気の付かぬ箇所で手の省かれた代物だったり、実際には存在しないマルクープ爺さんの勝手な創作だったりした。
当時パラオ地方に「神様事件」といわれるものが起っていた。パラオ在来の俗信と基督《キリスト》教とを混ぜ合せた一種の新宗教結社が島民の間に出来上り、それ
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