て一踊り祝の踊をし、表面が巧く削れたといっては又一踊りするので、仲々はか[#「はか」に傍点]が行かない。初め細かった月が一旦円くなり、それが又細くなる迄かかって了った。其の間カヤンガルの浜辺の小舎に起臥《おきふし》しながら、ギラ・コシサンは時々懐かしいリメイのことを心細く思い浮べた。あの恋喧嘩《ヘルリス》以来自分があの女に会いに行けない苦しさを、果してリメイは解って呉《く》れているだろうかと。
一月の後、ギラ・コシサンは莫大な珠貨《ウドウド》を職人達に支払い、新しい見事な舞踊台を小舟に積んでガクラオに帰った。
彼がガクラオの浜に着いた時は夜であった。浜辺にあかあかと篝火《かがりび》が燃え、人々の手を拍ち唱いはしゃぐ声が聞える。村人が集まって豊年祈りの踊をしているのであろう。
ギラ・コシサンは踊の場所から大分離れた所に舟を繋ぎ、舞踊台は舟に残したまま、そっと上陸した。静かに踊の群に近付き椰子樹の陰から覗いて見たが、踊る人々の中にも見物の中にも妻のエビルの姿は見えない。彼は心重く己が家へと歩を運んだ。
ひょろ高い檳榔樹《びんろうじゅ》木立の下の敷石路をギラ・コシサンは、忍び足で灯の
前へ
次へ
全18ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中島 敦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング