南島譚
夫婦
中島敦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)本島《ほんとう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)大|蜥蜴《とかげ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]《むし》り
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 今でもパラオ本島《ほんとう》、殊にオギワルからガラルドへ掛けての島民で、ギラ・コシサンと其《そ》の妻エビルの話を知らない者は無い。

 ガクラオ部落のギラ・コシサンは大変に大人しい男だった。其の妻のエビルは頗《すこぶ》る多情で、部落の誰彼と何時《いつ》も浮名を流しては夫を悲しませていた。エビルは浮気者だったので、(斯《こ》ういう時に「けれども」という接続詞を使いたがるのは温帯人の論理に過ぎない)又、大の嫉妬家《やきもちや》でもあった。己の浮気に夫が当然浮気を以て酬いるであろうことを極度に恐れたのである。夫が路の真中を歩かずに左側を歩くと、其の左側の家々の娘共はエビルの疑を受けた。逆に右側を歩くと、右側の家々の
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