女達に気があるのだろうと云ってギラ・コシサンは責められるのである。村の平和と、彼自身の魂の安静との為に、哀れなギラ・コシサンは狭い路の真中を、右にも左にも目をやらずに、唯真下の白い眩《まぶ》しい砂だけを見詰めながら、おずおずと歩かねばならなかった。
パラオ地方では痴情にからむ女同志の喧嘩のことをヘルリスと名付ける。恋人を取られた(或いは取られたと考えた)女が、恋敵《こいがたき》の所へ押しかけて行って之《これ》に戦を挑むのである。戦は常に衆人環視の中で堂々と行われる。何人も其の仲裁を試みることは許されぬ。人々は楽しい興奮を以て見物するだけだ。此《こ》の戦は単に口舌にとどまらず、腕力を以て最後の勝敗を決する。但し、武器刃物類を用いないのが原則である。二人の黒い女が喚《わめ》き、叫び、突き、抓《つね》り、泣き、倒れる。衣類が――昔は余り衣類をまとう習慣が無かったが、それだけに其の僅かの被覆物は最低限の絶対必要物であった。――※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]《むし》り破られることは言う迄もない。大抵の場合、衣類を悉《ことごと》く※[#「てへん+毟」、第4水準2−78−12]り取
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