、章魚《たこ》の木の葉で編んだ新しい呉蓙《ござ》の敷き心地もヒヤヒヤと冷たくて誠に宜しい。しかし、朝になると、依然として汚ない小舎の中で目を醒ました。一日中烈しい労働に追い使われ、食物としてはクカオ芋の尻尾と魚のあら[#「あら」に傍点]としか与えられないことも今迄通りである。
次の晩も、次の次の晩も、それから毎晩続いて、哀れな下僕は夢の中で長老になった。彼の長老ぶりは次第に板について来た。御馳走を見ても、もう初めの頃のように浅間しくガツガツするようなことは無い。妻との間に争いをしたことも度重なった。妻以外の女に手出しが出来ることを知ってからも久しくなる。島民等を頤使《いし》して、舟庫を作らせたり祭祀をとり行ったりもした。司祭《コロン》に導かれて神前に進む彼の神々しさに、島民共は斉《ひと》しく古英雄の再来ではないかと驚嘆した。彼に仕える下僕の一人に、昼間の彼の主人たる第一長老と覚しき男がいる。此の男の彼を怖れる様といったら、可笑《おか》しい位である。それが面白さに、彼は、第一長老に似た此の下僕に一番酷い労働をいいつける。漁もさせれば、椰子蜜採りもさせる。我が乗る舟の途に当るからとて、此
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