か味方か、いずれかだ。その方が遥かに健全な状態だ。此の温帯地の・色彩の褪《あ》せた幽霊然たる風景と比べる時、我がヴァイリマの森の、何という美しさ! 我が・風吹く家の、何たる輝かしさ!
此の地に隠退している、ニュージーランドの父、サー・ジョージ・グレイに会った。政治家嫌いの私が彼に面会を求めたのは、彼が人間であることを――マオリ族に最も博大な人間愛を注いだ人間であることを信じたからだ。会って見ると、果して立派な老人だった。彼は実に良く土人を――その微妙な生活感情に至る迄、知っている。彼は真にマオリ人の身になって、彼等のことを考えてやった。植民地総督として全く異例のことだ。彼は、マオリ人に英人と同等の政治上の権力を与え、土人代議士の選出を認めた。そのため白人移民に欣《よろこ》ばれず、職を辞したのである。しかし、彼の斯うした努力のお蔭で、ニュージーランドは今最も理想的な植民地になっているのだ。私は彼に、サモアで自分のしたこと、しようと欲したこと、其の政治的自由に就いては自分の力の及ぶ所でないとするも兎に角、土人の将来の生活、その幸福の為に今後も尽くそうとしていること等を語った。老人は一々共
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