るので、此の上にも貴重な時間をとる政治問題が少々うるさくなることがあるのだ。しかし、気の毒なマターファのことを考えると、じっとしていられないような気がする。精神的援助しか与えることの出来ぬ腑甲斐なさ! だが、お前に政治的権力があるとすれば、一体どうしてやり度いのだ? マターファを王にする? 宜しい。そうなればサモアは立派に存続できると思っているのか? 哀れな文学者よ。お前は本当にそう信じているのか? それとも、近い将来に於けるサモアの衰亡を予想しながら、唯感傷的な同情をマターファに注いでいるに過ぎないのか? 最も白人的な同情を。
 コルヴィンからの手紙の中に、私の書信が余りに何時も「君の|黒色人及び褐色人《ブラックス・アンド・チョコレーツ》」のことを書き過ぎる、と言って来ている。ブラックス・アンド・チョコレーツに対する関心が私の制作時間を奪い過ぎては困るという・彼の気持は解らぬことはない。しかし結局、彼(並びに他の在英の友人達)には、私が私のブラックス・アンド・チョコレーツに対して如何に親身な気持を有《も》っているかが本当には解っていないのだ。この事ばかりでなく、他の一般に就いても、四
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