ント・イーヴ。それを英語読みにして「セント・アイヴス」と題しようと思う。ローランドソンの「文章法」と、一八一〇年代の仏蘭西及びスコットランドの風俗習慣、殊に監獄状態に就いての参考書を送って呉れるよう、バクスタアとコルヴィンとに頼んでやる。「ウィア・オヴ・ハーミストン」にも「セント・アイヴス」にも、両方に必要だから。図書館の無いこと。本屋との交渉に手間どること。此の二つには全く閉口する。記者に追いかけられる煩わしさの無いのは良いが。

 政務長官も、裁判所長《チーフ・ジャスティス》も辞職説を伝えられながら、アピア政府の無理な政策は依然変らない。彼等は、税を無理に取立てるために、軍隊を増強してマターファを追払おうとしているようだ。成功するにしても、しないにしても、白人の不人気、人心の不安、この島の経済的疲弊は加わる一方である。
 政治的な事に立入るのは煩わしい。此の方面に於ける成功は、人格|毀損《きそん》以外の如何なる結果をも齎《もたら》さない、とさえ思う。…………私の政治的関心(この島に於ける)が減った訳ではない。ただ、長く病臥《びょうが》し喀血などすると、自然、創作に割く時間が制限され
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