に傍点]の女中達が島民の標準よりは幾らか顔立が良いとかで、ヴァイリマをサルタンの後宮に比べた莫迦《ばか》がいる。だから金がかかるだろうと。明らかに中傷の目的で言ったには違いないが、冗談も良い加減にするがいい。このサルタンは精力絶倫どころか、辛うじて生きながらえている痩男《やせおとこ》だ。ドン・キホーテに比べたり、ハルン・アル・ラシッドにしたり、色んな事をいう奴等だ。今に、聖パオロになったり、カリグラになったりするかも知れぬ。又、誕生日に百人以上の客を招《よ》ぶのは贅沢《ぜいたく》だという人もある。私は、そんなに沢山の客を招んだ覚えはない。向うで勝手に来るのだ。私に、(或いは、少くとも私のうち[#「うち」に傍点]の食事に)好意をもって来て呉れる以上、之も仕方が無いではないか。祝宴等の際に土人をも招ぶからいけない、などと言うに至っては言語道断。白人を断っても彼等を招んでやり度い位だ。其等|凡《すべ》ての費用を初めから計算に入れて、尚、結構やって行ける積りだったのだ。何しろ斯《こ》んな島のこととて、贅沢はしようにも出来ないのだから。兎に角、私は昨年中に四千|磅《ポンド》以上は書捲《かきま》く
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