」を入れることには、ファニイが不服だという。

一八九三年一月×日
 引続いて微熱去らず。胃弱も酷《ひど》い。
「デイヴィッド・バルフォア」の校正刷、未だに送って来ない。どうした訳か? もう少くとも半分は出ていなければならない筈。
 天候はひどく悪い。雨。飛沫《しぶき》。霧。寒さ。
 払えると思っていた増築費、半分しか払えない。どうして、うち[#「うち」に傍点]は斯んなに金がかかるのか? 格別|贅沢《ぜいたく》をしているとも思えないのに。ロイドと毎月頭を絞るのだが、一つ穴を埋めれば、外に無理が出来てくる。やっと巧《うま》く行きそうな月には、決って英国軍艦が入港し士官等の招宴を張らねばならぬようになる。召使が多過ぎる、という人もある。傭《やと》ってある者は、そう大した人数ではないが、彼等の親類や友人が終始ごろごろしているので、正確な数は判らない。(それでも百人を多くは越さないだろう。)だが、之は仕方がない。私は族長だ、ヴァイリマ部落の酋長《しゅうちょう》なのだ。大酋長は、そんな小さな事にかれこれ云うべきではない。それに実際、土人が何程いても其の食費は知れたものなのだから。うち[#「うち」
前へ 次へ
全177ページ中89ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中島 敦 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング