ないお話[#「お話」に傍点]だ。スティヴンスンなんて結局通俗作家さ。」と、多くの人がそう言う。しかし、スティヴンスンの愛読者は、決して、それに答える言葉に窮しはしない。「賢明なスティヴンスンの守護天使《ジーニアス》(その導きによって彼が、作家たる彼の運命を辿《たど》ったのだが)が、彼の寿命の短いであろうことを知って、(何人にとっても四十歳以前に其の傑作を生むことが恐らくは不可能であろう所の・)人間性|剔抉《てっけつ》の近代小説道を捨てさせ、その代りに、此の上なく魅力に富んだ怪奇な物語の構成と、その巧みな話法との習練に(之ならば仮令早世しても、少くとも幾つかの良き美しきものは残せよう)向わせたのである」と。「そして、之こそ、一年の大部分が冬である北国の植物にも、極く短い春と夏の間に大急ぎで花を咲かせ実を結ばせる・あの自然の巧みな案排《あんばい》の一つなのだ」と。人、或いは云うであろう。ロシア及びフランスのそれぞれ最も卓《すぐ》れた最も深い短篇作家も、共に、スティヴンスンと同年、或いは、より若く死んでいるではないか、と。しかし彼等は、スティヴンスンがそうであった様に、絶えざる病苦によって短
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