が、明日は初等数学だ。)享楽的なポリネシア人の中でも特に陽気なのが彼等サモア人だのに。サモア人は自ら強いることを好まない。彼等の好むのは、歌と踊と美服(彼等は南海の伊達者《ダンディ》だ。)と、水浴とカヴァ酒とだ。それから、談笑と演説と、マランガ――之は、若者が大勢集まって村から村へと幾日も旅を続けて遊び廻ること。訪ねられた村では必ず彼等をカヴァ酒や踊で歓待しなければならないことになっている。サモア人の底抜の陽気さは、彼等の国語に「借財」或いは「借りる」という言葉の無いことだ。近頃使われているのはタヒティから借用した言葉だ。サモア人は元々、借りる[#「借りる」に傍点]などという面倒な事はせずに、皆貰って了うのだから、従って、借りる[#「借りる」に傍点]という言葉も無いのである。貰う――乞う――強請する、という言葉なら、実に沢山ある。貰うものの種類によって、――魚だとか、タロ芋だとか、亀だとか、筵《むしろ》だとか、それに依って「貰う」という言葉が幾通りにも区別されているのだ。もう一つの長閑《のどか》な例――奇妙な囚人服を着せられ道路工事に使役されている土人の囚人の所へ、日曜着の綺羅《きら》
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