を飾った囚人等の一族が飲食物携帯で遊びに行き、工事最中の道路の真中に筵を敷いて、囚人達と一緒に一日中飲んだり歌ったりして楽しく過すのだ。何という、とぼけた明るさだろう! 所で、うち[#「うち」に傍点]のヘンリ・シメレ君は斯《こ》うした彼の種族一般と何処か違っている。その場限りでないもの、組織的なものを求める傾向が、この青年の中にある。ポリネシア人としては異数のことだ。彼に比べると、白人ではあるが、料理人のポールなど、遥かに知的に劣っている。家畜係のラファエレと来ては、之は又典型的なサモア人だ。元来サモア人は体格がいいが、ラファエレも六|呎《フィート》四|吋《インチ》位はあろう。身体ばかり大きいくせに一向意気地がなく、のろま[#「のろま」に傍点]な哀願的人物である。ヘラクレスの如くアキレスの如き巨漢が、甘ったれた口調で、私のことを「パパ、パパ」と呼ぶのだから、やり切れない。彼は幽霊をひどく怖がっている。夕方一人でバナナ畑へ行けないのだ。(一般に、ポリネシア人が「彼は人だ」という時、それは、「彼が幽霊ではなく、生きた人間である。」という意味だ。)二三日前ラファエレが面白い話をした。彼の友人
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