ファが私をアフィオガと呼んで、ヘンリを仰天させた。今迄私はススガ(閣下に当ろうか?)と呼ばれていたのだが、アフィオガは王族の称呼である。マターファの家に一泊。
今朝、朝食後、大灌奠式《ローヤル・カヴァ》を見る。王位を象徴する古い石塊にカヴァ酒を灌《そそ》ぐのだ。此の島に於てさえ半ば忘れられた楔形《くさびがた》文字的典礼。老人の白髯《はくぜん》を集めて作った兜《かぶと》の飾り毛を風に靡《なび》かせ、獣歯の頸掛《くびかけ》をつけた・身長六|呎《フィート》五|吋《インチ》の筋骨隆々たる赤銅色の戦士達の正装姿は、全く圧倒的である。
九月×日
アピア市婦人会主催の舞踏会に出席。ファニイ、ベル、ロイド、及びハガァド(例のライダア・ハガァドの弟。快男児なり、)も同行。会半ばにして裁判所長《チーフ・ジャスティス》ツェダルクランツ現る。数ヶ月前不得要領な訪問を受けて以来の対面なり。小憩後、彼と組になってカドリルを踊る。珍妙にして恐るべきカドリルよ! ハガァド曰《いわ》く、「奔馬の跳躍にさも似たり」と。我等二人の公敵が、それぞれ、厖大《ぼうだい》にして尊敬すべき二人の婦人に抱きかかえられつつ、手を組
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