行く。王と約束の会見の為なり。十時迄待ったが、王は来らず。使が来て、王は今、政務長官と用談中にて来られぬとのこと。夜七時頃なら来られるという。一旦家に戻り、夕刻又ホイットミイ氏の家に来て、八時頃迄待ったが、竟《つい》に来ない。無駄骨折って疲労甚だし。長官の監視を逃れて、こっそりやって来ることさえ、弱気なラウペパには出来ないのだ。
五月×日
午前五時半出発、ファニイ、ベル、同道。通訳兼|漕手《こぎて》として、料理人のタロロを連れて行く。七時に礁湖を漕出す。気分未だすぐれず。マリエに着きマターファから大歓迎を受く。但し、ファニイ、ベル、共に余が妻と思われたらしい。タロロは通訳としては、まるで成っていない。マターファが長々としゃべるのに、此の通訳は、唯、「私は大いに驚いた。」としか訳せない。何を言っても「驚いた」一点張。余の言葉を先方に伝えることも同然らしい。用談|進捗《しんちょく》せず。
カヴァ酒を飲み、アロウ・ルウトの料理を喰う。食後、マターファと散歩。余の貧弱なるサモア語の許す範囲で語合った。婦人連の為に、家の前で舞踏が行われた。
暮れてから帰途に就く。此のあたり、礁湖|頗《す
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